『奄美ノネコ管理計画』への意見書への回答に対し、
再度回答を要求
川口短期大学 小島望教授

2019.2.6

2018年11月13日に当協会の評議員を務める川口短期大学・小島望教授が環境省等に意見書を提出されましたが、その回答があまりにも表面的なものであるため、再度回答を求める質問書を提出されました。
真摯な取り組みを求める小島教授の意見に賛同し、以下に全文を掲載いたします。


平成31年2月1日
環境省自然環境局
総務課 動物愛護管理室
野生生物課 希少種保全推進室
那覇自然環境事務所 野生生物課
奄美野生生物保護センター
奄美大島ねこ対策協議会 御中

川口短期大学 教授 小島 望

「『奄美大島における生態系保全のためのノネコ管理計画』への意見書に対する回答について」への質問書前回の平成30 年11 月13 日付けの意見書では具体的な事例をあげて質問または意見を述べさせていただきました.
しかし,その内容にはほとんど触れず,表面的な回答に終始していることについては誠に遺憾であるといわざるを得ません.
こちらとしては現状を把握したうえで,専門的見地から意見を申し上げているので,行政として説明責任を適切に果たしていただきたく思います
.以下,具体的な説明および回答を再度求めます.回答は2 月18 日までにお願いいたします.

1.協議会では,捕獲された全ての個体に譲渡の機会を与える方針をとっています.譲渡対象者については捕獲開始よりも前から募集をしており,これまでも譲渡対象者に捕獲された個体の情報を伝え,適切に譲渡を行っています.

→本件については,「適切」な譲渡を行なう体制となっているとは考えられないために意見を申し上げました.
譲渡の機会が大幅に狭められている現状を危惧して,個体情報の公開や保管期間の延長,譲渡に関する不合理な制限や審査制度の再考などの具体的な提案を示して譲渡の機会をより拡大するように要望し,また殺処分ゼロを目指す省の方針に沿ったかたちで捕獲されたネコを愛護法対象として取り扱うよう当然の要求をしています.再度,この2 点について具体的な回答を求めます.

2.「奄美ノネコ管理計画」では,ノラネコや飼い猫が捕獲される可能性があることを明記しています.それを踏まえた上で,捕獲後の対応を記載しております.

→「明記」していれば問題がないという回答なのであればこちらの意図が全くご理解いただけていないようです.
ノネコの定義を自然環境局長名義で通達する一方で,それに反したものも十把一絡げにノネコと称して扱っているのは問題ではないかと指摘しているのです.本計画では,自然環境局長通達の範囲を超えてノネコの定義を拡大解釈をして捉えているのではないかという指摘に対して詳細にご説明ください.
私自身が「野生」という曖昧にされ続けてきた定義について研究対象としているので,貴省がどのような考えのもとにノネコを定義し,実際にどのような解釈をもってネコを捕獲しているのかを把握したうえで,それが誤っているのであれば専門家として糺す責任があると考えております.現状からは関係部局間での調整が適切にできているとは思えないのでお伺いしております.

3.ノネコは,通常ノラネコや飼い猫よりも飼育が難しいと考えられ,適切に飼養できる者に譲渡することが必要であるため譲渡希望者に登録いただく制度としています.
譲渡を希望する登録者には、捕獲個体の情報を提供しており,適切な譲渡の推進に努めているところです.また,譲渡希望者については常時募集しており,登録者が増えるよう努めていますのでご協力をいただければ幸いです.

→捕獲されるネコをノネコと決めつけているため,さらには実際に捕獲されているネコの大部分が人に馴れたノラネコであるという現状認識が欠落しているために,飼育が難しいと考えているのではないでしょうか.
実際にどのような個体が捕獲されているのかを把握できていないのでしたら,現在まで譲渡されているネコがどのような状態であるのをかを保護している団体に直接ヒアリングされるべきです.
そもそも登録者を増やし,譲渡の機会を拡大させるために,協議会の「殺処分前提」の姿勢を改めるようにとの前回の意見については全く回答をいただいておりません.
実際に私自身が協議会事務局から聞き取りを行ない,本事業が「殺処分前提である」との言葉をはっきりと聞いております.
殺処分前提の取り組み姿勢はおかしいとの指摘について,環境省として,協議会としてどのように考えているのかを明確に回答してください.真に「ご協力」を求めているのであれば,信頼関係を築くことからはじめなければいけません.
貴省や協議会が情報公開を十分に行なわず,NPO 等の市民団体との協議も欠落したまま本計画を強行するような硬直化した運営を続ける限り,満足な協力体制など構築できはしないと考えます.
現に,この度の私宛の貴省らの回答を拝見する限りにおいても真摯な対応だと解することはできません.

4.適切な譲渡を実現するため、譲渡希望者の審査をしております。各種証明書は、適切に継続して飼養できるかどうかをチェックするために必要と考えています。

→ネコが希少種を捕食して問題となっている各地の離島等でこれまで必要としなかったものを,なぜ奄美では新たに要求するのかお聞きしております.
「適切に継続して飼養できるか」かどうかを検討するために,なぜプライバシーに深く関わるような納税証明書や所得証明書が必要となることにつながるのか,貴省の説明があまりにも粗雑であるために理解できません.
適切に飼養できる譲渡希望者であるどうかが所得と直接的につながるものではありませんので,その関連性も含めて納税証明書や所得証明書を必要とする理論的な説明を求めます.
また,譲渡希望者の適格不適格を判定するための審査基準が示されず,公正さに欠けるこの閉鎖的な審査制度を全国の,特に島嶼でのネコ対策に適用されることについても危惧しています.
譲渡希望者に対する現審査制度を他の島嶼等においても適用していく予定があるのかどうかについてご返答ください.

5.奄美における希少種や貴重な生態系の保護のため,ノネコ対策は重要であると考えています.一方で,ノネコ以外の要因についても優先順位をつけて対処していくことが必要であり,奄美大島ではマングース対策や交通事故対策に取り組んでいます.
今後も,地域の方々や専門家の意見等を聞きつつ各種対策を進めていきたいと考えます.

→ネコへの対策は重要であり必要あるということはこちらとしても認識しております.
ただ,明らかに近年高止まりしたままとなっているアマミノクロウサギの交通事故死への対策はおろそかにされている一方で,ノネコ駆除にのみ目立って予算と人員を偏らせているようにしかみえません.
本種への個体数減少への影響の大きさを考えた場合,ネコ対策の重要性はもちろんですが,交通事故対策も優劣つけがたいほど優先度が高いはずです.
しかしながら,ネコ対策ほどの予算と人員を動員して有効性が認められる交通事故対策等が行なわれている形跡は見受けられません.
私の不見識なのであれば申し訳ないのですが,どのような交通事故対策(チラシ配布や看板設置等以外で)に「取り組んで」いるのか具体的にご教示ください.してこなかったのであれば,なぜこれまで積極的な交通事故対策の取り組みがなされなかったのかをご説明ください.

また『奄美の明日を考える奄美国際ノネコ・シンポジウム』における「森で捕まえたネコに新しい飼い主が見つかるまで飼っておける施設を作ってください」との子どもたちの要望と,「殺処分前提」を明言する協議会の施設運営方針との整合性についてご説明ください.
一見施設を造って要望に応えたようにみせかけておきながら,実際には飼い主をみつけようとする努力を尽くそうとせずに殺処分を行なう,といった子どもたちの気持ちを裏切る非倫理的な現方針に対しては,環境問題の普及啓発に力を入れている環境教育者としての立場から,非常に問題があると考えている次第です.
環境教育においては,生命倫理の要素が必須であるという気風が若い教育者のなかでも高まりつつあります.
子どもたちや教育者にも納得のいくような回答を是非提示していただきたいと思います.

『奄美ノネコ管理計画』への意見書への回答

平成30 年11 月27 日
川口短期大学教授 小島 望 様

環境省自然環境局
総務課 動物愛護管理室
野生生物課 希少種保全推進室
那覇自然環境事務所 野生生物課
奄美野生生物保護センター
奄美大島ねこ対策協議会

『奄美大島における生態系保全のためのノネコ管理計画』へのご意見書について

自然環境行政の推進につきまして、平素より多大なるご理解とご協力を賜り厚く御礼申し上げ ます。平成30 年11 月13 日付でいただいた標記につきまして、下記のとおり回答いたします。 今後ともご理解ご協力の程よろしくお願い申し上げます。

1. 協議会では、捕獲された全ての個体に譲渡の機会を与える方針をとっています。譲渡対象者については捕獲開始よりも前から募集をしており、これまでも譲渡対象者に捕獲された個体の情報を伝え、適切に譲渡を行っています。

2. 「奄美ノネコ管理計画」では、ノラネコや飼い猫が捕獲される可能性があることを明記しています。それを踏まえた上で、捕獲後の対応を記載しております。

3.ノネコは、通常ノラネコや飼い猫よりも飼育が難しいと考えられ、適切に飼養できる者に譲渡することが必要であるため譲渡希望者に登録いただく制度としています。譲渡を希望する登録者には、捕獲個体の情報を提供しており、適切な譲渡の推進に努めているところです。また、譲渡希望者については常時募集しており、登録者が増えるよう努めていますのでご協力をいただければ幸いです。

4. 適切な譲渡を実現するため、譲渡希望者の審査をしております。各種証明書は、適切に継続して飼養できるかどうかをチェックするために必要と考えています。

5. 奄美における希少種や貴重な生態系の保護のため、ノネコ対策は重要であると考えています。 一方で、ノネコ以外の要因についても優先順位をつけて対処していくことが必要であり、奄美大島ではマングース対策や交通事故対策に取り組んでいます。今後も、地域の方々や専門家の意見等を聞きつつ各種対策を進めていきたいと考えます。


『奄美ノネコ管理計画』への意見書提出
川口短期大学 小島望教授

2018.11.22

当協会の評議員を務める川口短期大学教授の小島望教授が環境省に意見書を提出されました。小島教授は「生物多様性と現代社会」や「野生動物の餌付け問題(共著)」などの著作がある野生動物の研究者です。
真摯な取り組みを求める小島教授の意見に賛同し、以下に全文を掲載いたします。


平成 30 年 11 月 13 日
環境省自然環境局 総務課 動物愛護管理室
環境省自然環境局 野生生物課 希少種保全推進室
環境省奄美野生生物保護センター
奄美大島ねこ対策協議会 御中

『奄美大島における生態系保全のためのノネコ管理計画』への意見書
川口短期大学 教授 小島望

野生動物の保全生態的研究,および動物の餌付け問題を通じて「野生」と「野生」で はない境界領域の動物の研究に携わってきた専門的立場から,『奄美大島における生態系 保全のためのノネコ管理計画(以下,『奄美ノネコ管理計画』とする)』において,複数 の矛盾点や不合理的な点が確認できたため,以下について早急に改善を要求します.なお 本要求に対する回答は平成 30 年 11 月 27 日までにお願いいたします.

1.奄美大島ねこ対策協議会は「ノラネコは動愛法対象である」という認識に基づき,再 度環境省との協力・連携のもとでノネコ譲渡の運営体制の改善に取り組みこと
理由:現在,「環境省からノラネコは『動物の愛護及び管理に関する法律(以下『動愛 法』とする)』対象ではないと聞いた」との協議会の誤った認識に基づいて,ノネコセン ターの運営が行なわれています.環境省の全面的な協力体制をもとで実施していると主張 しながらも,『動愛法』の基本的な考え方でさえ正しく理解できていなかったという事実 は,協議会と環境省の連絡・調整不足,縦割り行政の弊害を露呈しています. 『奄美ノネコ管理計画』の関係機関においては,このような初歩的な共通理解がなされ ないままネコ譲渡が進められていた異常事態について猛省を求めるとともに,殺処分ゼロ を目指す環境省の方針や『動愛法』の精神に合致するネコ譲渡の体制・運営へと再構築を図ることを要求します.

2.他地域でのノネコ問題へ悪影響を及ぼす『奄美ノネコ管理計画』におけるノネコの定 義の拡大解釈を見直すこと
理由:『奄美ノネコ管理計画』の考え方では,ノネコとして捕まれば,ノラネコや飼い ネコであっても「ノネコ」であるという理屈になりますが,当然のことながら,ネコを山 野(の)で捕獲したら「ノネコ」になるわけではありません.環境省自然環境局長から出 された昨年の通知<平成 29 年3月 31 日付け環自野発第 1703311 号>の「野生」につい ての定義にしたがってノネコを定義すれば,「当該個体が元々飼育下にあったかどうかを 問わず,飼主の管理を離れ,常時山野等にいて,専ら野生生物を捕食し生息している状 態」のネコが「ノネコ」であると解釈されます.さらに「市街地または村落を徘徊してい るようないわゆるノラネコ,ノライヌは法(『鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に 関する法律(以下『鳥獣法』とする)』の対象にはならない」とあることから,捕獲され た個体がノネコなのかノラネコなのか,それとも飼いネコであるのかを判別するには,捕 獲したのちに慎重に検証する必要があります.
そもそも常時山野等にいて,専ら野生生物を捕食し生息している,集落に全くといって いいほど依存していないネコがそれほど多くいるとは考えにくく,むしろ捕獲されるネコ のなかには,かなり高い確率でノラネコやイエネコが混じってしまうことが容易に推測で きます.しかしながら,『奄美ノネコ管理計画』では「森林内のネコはノネコがほとんど と推測される(『奄美ノネコ管理計画』7-1(3))」との憶測を示していることから,本計 画の見通しの甘さや裏付けとなる基礎調査の不十分さは否めません.さらに,条例で定め られているマイクロチップ挿入と鑑札装着が義務付けられているからといって,当該地域 の両者の挿入率・装着率がさほど高いわけでもないにもかかわらず,鑑札やマイクロチッ プ,首輪などが装着されていて飼い主がいると想定される以外の個体は「飼養を希望する 者への譲渡に努め,譲渡できなかった個体はできる限り苦痛を与えない方法を用いて安楽 死させる(『奄美ノネコ管理計画』7-1(4))」という軽率で拙速な方法で殺処分を進めよ うとしており,「譲渡に努め」ようとする積極的姿勢は全く感じられません.
以上のことから,本計画は,『動愛法』対象の愛玩動物であるノラネコや飼いネコと疑 われる個体の存在を意図的に看過し,自然局長通知の内容に合致しないネコまでもノネコ として速やかに処分しようとしている現在の意図的な解釈を改め,ノネコという不適切な 用語の使用は止めるべきであると提案します.

3.動物愛護軽視,希少種保護偏重の『奄美ノネコ管理計画』を見直すこと
理由:『奄美ノネコ管理計画』は希少種保護と動物愛護の二柱から構成されており,そ の概念自体に異存はありません.森林内に侵入しているネコが希少種を捕食し,在来生態 系に景況を与えているだろうということにも否定はしません.本計画のなかで私が問題視 しているのは,捕獲したネコのその後の扱いについてです.
希少種保護という観点からは,アマミノクロウサギやアマミヤマシギなどの希少種の保 護が目的であり,捕獲したネコを森林外へ出した時点で目的は達成するため,捕獲された ネコを殺処分しなければならない理由はどこにもありません.捕獲されたネコに罪はな く,私たち人間にこそ罪があるということについては誰も異論はないはずだからです.し たがって,何の罪もないペット由来のネコを極力殺処分しないように努めるのが筋であ り,それは環境省のイヌネコ殺処分ゼロの方針と合致します.
しかし,『奄美ノネコ管理計画』におけるネコ譲渡の運営体制の考え方には,捕獲した ネコを速やかに殺処分できるようにしたいという意図が強く働いているといわざるを得ま せん.現在のノネコセンターでは,譲渡希望者を審査によって絞り込み,個体の写真を公 表せず十分な情報発信もせず,さらに譲渡期間を1週間と短くすることで,譲渡の機会を 意図的に縮小させ,殺処分を容易にするような仕組みとなっているからです.つまり, 「飼養を希望する者への譲渡に努め」るとしながらも,実際には協議会の職員の「ノネコ 管理計画はネコの殺処分が前提」という主張を具現化するかのような,ネコの生存の機会 を不当に奪う欠陥的施策となっています.動物愛護の観点からは,『動愛法』の精神や殺 処分ゼロの環境省の方針と明らかに逆行した内容といえるでしょう.しかも,捕獲数は予 想通りには進んでおらず,収容スペースには十分な空きがあると聞いておりますので,収 容期間の延長は難しくはないはずです.
以上のことから,『奄美ノネコ管理計画』のネコ譲渡における動物愛護管理面の充実化 を図ること,特に捕獲されたネコの写真の公表や保管期間の延長などを通じて,譲渡の機 会を可能な限り拡大することを強く要求します.

4.他地域でのノネコ問題の取り組みへ悪影響を及ぼす可能性が高いネコ譲渡の現運営体 制を見直すこと
理由:捕獲されたネコは疾病を保有している可能性が高く,人に馴れにくく一般的なネ コに比べて飼育も難しいことから,譲渡希望者をある程度吟味せざるを得ない,そのため に『ノネコ譲渡希望者審査委員会(以下,『譲渡委員会』とする)』は厳正な審査を行な っているのだ,との行政の説明に対しては一定の理解はできます.しかし,もしそうなの であれば情報発信を充実させ,譲渡のための準備期間に多くの時間を割くなど,島内外か ら広く譲渡希望者を募る努力をしていなければ辻褄が合いません.実際には,譲渡希望の 需要が供給よりも小さくなるように恣意的な運営がなされており,譲渡に消極的な姿勢は 明白です.
特に,『譲渡委員会』の審査において,譲渡希望者に納税証明書や所得証明書を提出さ せることは非常に多くの問題を孕んでいることを指摘しておきます.譲渡希望者に譲渡認 定証を交付するか否かは『譲渡委員会』の判断にのみゆだねられており,基準を満たす明 確な所得額は設定されず,判断基準の根拠も不明であるため,公正な審査となっていると はいえません.何よりも,ノラネコが『動愛法』対象であることさえ認識のなかった組織 が果たして譲渡希望者の飼育条件について適切な判断ができるのか,さらには審査をする 資格さえあるのか甚だ疑問です.
このようなブラックボックス的審査に加え,譲渡認定証を持つ者のみネコの捕獲情報に アクセスすることができる,地元鹿児島獣医師会所属の動物病院限定でのマイクロチップ 挿入義務があることなど,煩雑な手続きや不便さ,不条理さを手譲渡希望者に強要する仕 組みとなっており,特に島外からの譲渡の機会を著しく低下させている要因となっている のは容易に推測できます.このような行政主導によるミスリードがまかり通れば,小笠 原,八丈島,御蔵島,天売島などの離島,および沖縄北部において捕獲したネコ譲渡に意 欲的に取り組んでいる諸団体のこれまでの努力に水を差し,悪影響を与えることは避けら れません.
以上のことから,譲渡を軽視し,殺処分を前提とした『ノネコ管理計画』におけるネコ の譲渡体制を早急に見直すことを強く要求します.

5.ノネコ対策以外の希少種保護のための取り組みを拡大すること
理由:『外来種被害防止行動計画〜生物多様性条約・愛知目標の達成に向けて〜環境省 ほか(2015)』では,「2011 年から 2014 年に撮影されたネコの画像を解析した結果,奄 美大島の森林内に広くノネコが分布することが確認され,その頭数は約 600〜1,200 頭と 推定された」とあるが,そもそも 2010 年以前の個体数がどのように推移してきたのか や,どの程度増加して現在の個体数になったのかが明らかになっていません.単に 600〜 1200 という幅のある数だけをもって,近年ネコによる在来種への捕食圧が急激に高まった とされる原因が,数が増加したことにあると考えているのであればあまりにも浅慮である といわざるを得ません.かつての奄美の地域住民にとってネコを放し飼いで飼育するのは 一般的であり,奄美地方の世帯数や飼育個体数が近年増加しているわけでもないため,ノ ラネコ(飼育されている個体で室内外を自由に出入りできる個体も含む)の個体数が一気 に増加して在来種への捕獲圧が急激に高まったとも考えられません.
第一に,奄美での野放図な道路開発が現状と深くかかわっていることを認識すべきであ ると考えます.今回問題としているネコに加え,マングースのような外来生物が農地・山 林開発や林道開発の拡がりとともに外来生物が森林内の奥深くまで侵入する機会は確実に 増えているはずであり,このことが森林内でのネコの分布が広く確認できていることにつ ながっていると考えた方が保全生態学的見地からは妥当といえます.一帯に広く深く延び た道路網の発達が,交通事故の多発といった直接的な被害や,外来生物侵入の増大にとも なう捕食圧の増加といった間接的な被害と密接に関係しているという視点が『奄美ノネコ 管理計画』には明らかに欠落しています.

2015 年 12 月に開催された『奄美の明日を考える奄美国際ノネコ・シンポジウム』の記 録集(鹿児島大学,2016)のなかで,地元小学生らが,奄美の在来種を捕食するネコの問 題について学び,話し合って作成した絵本が紹介されています.その最後に「大人の皆さ んへのお願い」として,「森で捕まえたネコに新しい飼い主が見つかるまで飼っておける 施設を作ってください」との小学生の言葉が載せられています.現在実施されている『奄 美ノネコ管理計画』が,ネコに罪はない,何とか殺さないようにという子どもたちの願い を的確に汲み取っていると,本計画作成や運営に関わっている関係者は胸を張っていえる のか伺ってみたいものです.口のきけない,ましてや何の罪もない弱者をいとも簡単に殺 す社会がまともなわけはなく,
長年放置してきた人間社会の問題のつけを全てネコに押し 付けて「死人に口なし」とばかりに責任転嫁して殺処分することは道義上決して許される ことではありません.捕獲したネコの殺処分を容易に進める仕組みである本計画を知った 子供たちがどれほど社会に対して不信感を持つのかを真摯に考えてみてはいかがでしょう か.

先日,5月に世界自然遺産の登録延期が勧告された「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及 び西表島」を,再度ユネスコに推薦するとの報道がありましたが,登録地申請地のひとつ である奄美でこのような非人道的で杜撰な管理計画が行なわれていることが明るみにでれ ば,選考の障害になりかねないと危惧しております.
世界遺産登録を目指している場所で あるからこそ,地元奄美の誇りとなれるような,さらには国際的にも評価されるような希 少種保護と動物愛護の両面が充実した先進的な管理計画を作成し,実施してほしいと願っ ている次第です.

以上のことから,以前から指摘されている交通事故対策の強化はもちろんのこと,必要 のない林道を埋め戻して元の森林に戻すような環境復元型の希少種保護対策を強く要求す るとともに,地元教育機関を行政の都合で利用するのではなく,環境教育の一環として, またフィードバックシステムのひとつとして参画できるような関係を築くよう提案します.

<小島教授の意見書に加えて>
現在、奄美大島で進められているノネコ対策には、小島教授が指摘する内容に加えて、以下について懸念しております。
まず、10月28日麻布大学で開催されたシンポジウム「イエネコ問題を考える−生態系への影響、人獣共通感染症の問題から適正飼養へ−」で、森林総合研究所の山田文雄氏が行ったノネコの食性調査では、240匹の内常時アマミノクロウサギを捕食していたのは10匹、その他はペットフードを主食にしていたという内容が発表されていました。
つまり、大多数はノネコではなくノラ猫又は飼い猫であることが明らかだということです。 それを承知の上で「ノネコ」として捕獲し、「ノネコ」として処分する流れが作られているのであれば見過ごすことはできません。

次に、奄美市の条例では、飼い猫以外の猫にエサや水を与えることを禁止していますが、すでに「ノラ猫」がいる以上、人からエサや水を与えられなければ、山に入り野生生物を捕食する以外に道がなくなります。
また、人の生活圏で世話を行っている猫であれば捕獲し不妊去勢手術や馴致も容易ですが、山に追いやってしまえば捕獲すら困難になることは明白でしょう。「ノネコ」を作らないことこそ第一に考えるべきと思うのですが、何を意図した条文なのか理解に苦しみます。

最期に、ノネコ対策の根底には生態系に影響を及ぼすのは「外にいる猫」であり、「ノネコ」「ノラ猫」「飼い猫」の区別は関係ないという考えがある危機感です。
つまり、島嶼でのノネコ対策を前例に同様の条例が希少種の生息する地域で制定される可能性が否めないと思えるのです。
日本では無数の猫の捕獲処分を行い続けてきた歴史がありますが、それは捕獲処分ではノラ猫を減らすに至らなかった歴史でもあります。
捕獲処分では地域住民の猫に対する意識が培われない事、殺処分に反対する人は断じて協力をしない事、そしてTNRや地域猫活動によるノラ猫への対策さえも後退し住民間の軋轢も増大することに大きな危機感を感じています。

ノラ猫の繁殖防止は動物愛護団体が取組んでいる活動の大きな一つです。そして、動物愛護法で犬猫の不妊去勢手術の義務化や犬猫の繁殖販売制限により犬猫の数を減らすべきと考えています。
日本全体の蛇口の元を締めるべく共に歩めることを望んでいます。
(文責:山田佐代子)